日本なりのDefensetechはどの領域に必要か

Big issueの1つ治安/国防

前回記事でスタートアップ/VCが解くことができるIssue/課題が大きくなってきているのではないかということは記載した。下記図のように、よりファンドサイズなどスタートアップに流れるお金の総量が増えることによって、解決できうるIssueが10年前と比較すると大きくなってきているというのはわかりやすいであろう。

そういって拡張していった投資のスコープにおいてDefensetechのような領域というは特にUS中心に盛り上がりを見せている。そうした広義のDefenseについて今回はUSのスタートアップを取り上げながら現状と、投資スコープが日本であるならばどういうものがあるのかについて考えてみたい。

一方、少しテーマとしては物騒というか扱いずらいテーマでは正直あるし、実際に自分が投資をするとしてもここからは倫理というか自分の思想やファンドの思想が投資を通して突きつけられる感もある。そこまで自分もこのテーマに対してまだ思想は固められていない。一旦①課題としては大きくなってきている、②USでは産業として盛り上がりを見せている。というてん点は自分でも納得しているので、その点を中心に書きたい。


USにおけるDefensetechの勃興

欧米防衛8社、紛争特需で増産投資 時価総額5年で倍増 という日本経済新聞で最近のニュースでもでてきた。世界平和の観点においては全く良くないが、ウクライナへの侵攻などをきっかけにこういったUSではもともと巨大産業であった防衛産業への株価の上昇が起こっている。

American Dynamismのようなa16zが仕掛けたテーマ感もあるが、実際に大きな課題として特にアメリカ自体は過去から軍事産業などはテーマとして大きいし、日本で生まれて育った自分にはわからない感覚みたいなのはアメリカという国家全体にあるとは思う。

後述するが、その中でユニコーンなどのような企業は多くでてきている、古くはPalantirのようなものから、現在はAndurilみたいなところまで多くのスタートアップが生まれてきている。直近ではAndurilは高い評価額で調達をしかけている。実際にこの数年でベンチャーキャピタルからの出資は多くこの領域に向けられている。

その背後にはDARPAのような存在が多くの補助金や、政府系のお金も多く流れている。Palantirが最初にCIAが運営する非営利のファンドであるIn-Q-Telから出資を受けたのは有名な話だ。

このようにアメリカにおいては元々産業としても成り立っていたし世界の警察としての権威のもと世界の安全保障に積極的に関与していた(今回の選挙でトランプが勝つとこのあたりの方向性も以前とは異なる可能性も大いにあるとはおもうが)


日本に迫りくる課題と反応

台湾有事や地政学的に日本が位置する場所が非常に危ういという大きな観点から、直近目に見えて課題感がでているのはサイバーセキュリティの分野であろう。KADOKAWAがロシアのハッカー集団(ブラックスーツ)から攻撃を受けている。また、直近ではDMMへの攻撃もあっただろう。

そういったサイバー空間においての防衛/Defenseみたいなのは目に見えてみえる直近の課題ではあろう。能動的サイバー防御、今月にも有識者会議立ち上げへというニュースが直近あるように、法律周りであったり規制周りも動きそうな気配があるので、この課題に取り組むスタートアップも増えることを期待したい。

自分は1991年生まれなのだが、それからしばらくは世界的にもテロとの戦いはずっと続いていたと思うが、国家間の大きな脅威というのは少なかった。しかし2014年ほどのクリミア侵略から悪い変化が起こってきている。そして今回のウクライナの件や米中のヘゲモニー争いなどからこの2020年代に入りこのあたりの課題感の深刻さというのものは目に見えてきた。

そして日本という国の立ち位置や立ち振舞はより難しくなってくることは間違いないであろう。ロシア・中国・アメリカなどのような大国の思惑があるなかでどのように今考えるべきなのか、自分にはここで書けるほどの考えはないが、非常に複雑であることは理解できる。直近でも、中国の軍機が日本の領空を初めて侵犯したことが判明した。世界情勢が今までの流れではないないことを改めて感じさせられる。

そういった中で日本も防衛費について増額をするとともに、防衛省からどういった分野に注目しているのかについては資料や補助金などがでてきている。そのような資料をよむことでどのように日本政府が対応策を考えている一端は垣間見る事ができると同時に、事業家や投資家としては注目すべき分野が見えてくるところもあるだろう(防衛力抜本的強化の進捗と予算令和6年度安全保障技術研究推進制度 新規採択課題 etc..)


課題/解決すべきIssueと日本のスタートアップで取り組めるIssue

では具体的に職業柄一つ考えないといけないこととしては、どうやってスタートアップという形でこのようなBig issueに挑戦できるスタートアップを産むことができるだろうか、ということは考えてしまう。1つの方法としてはUSでのスタートアップがどういうものがあるのかということから帰納的にテーマ感を把握することである。もう一つは上記で紹介した基礎技術の方からのアプローチではあるとはおもうが、今回は前者のやり方から考えてみる。

①認知領域/インテリジェンス/ナラティブ攻撃対策

このあたりは例えばPalantirのような企業は有名だが、よく知られた分野である。日本のスタートアップにおいてもこの分野においてはまだまだ可能性があるし必要である気はしている。

特に今後認知領域におけるプロパガンダのようなものやFakenewsのようなものとの戦いに対する対応策は早急に求められるであろう。特にAIの進展が著しいいま、音声や映像などがAIによって制作される未来というのは近い未来であり、それが悪用されることも残念ながら多くでてきてしまうであろう。そういったもので人々の持つナラティブに対して攻撃してくる。いつのまにか自分のナラティブが情報操作によっていじられてしまうのだ。陰謀論などもこの一種であろう。

戦争においてもこのナラティブという戦場においても情報戦が行われている。以下引用した文章の中での戦争の語られ方を巡る攻防というのは、ウクライナやガザなどを見ていると非常に大事な観点であると身にしみて感じる。

今回のロシア・ウクライナ戦争に関する限り、侵略国と被侵略国は明確である。これほど明確な戦争は珍しいといってもよい。戦争の語られ方をめぐる攻防(narrative war)――あるいは国際的な世論戦、情報戦――は、圧倒的なウクライナ優位で推移してきた。ただしこの戦いは、最初に決着がついて終わりなのではない。この優劣のバランスは常に変化する。だからこそこの問題には継続的に注目していかなければならないのである。結論を先取りすれば、今日、ロシア・ウクライナ戦争の語られ方は、重要な転換点を迎える可能性がある。(戦争をエスカレートするのはどちらか――ロシア・ウクライナ戦争における「語られ方」をめぐる攻防

またPalantirのようなデータインテグレーション/データ分析を通してインテリジェンスを発揮するような企業というのはより様々な分野に必要になってくる。日本においてこの機能をいまどの企業が果たしているのかというとSIerなどの産業に近いのだとはおもうが、まだまだスタートアップとしてもこのあたりには必要とされるスペースはあるのではないかと考えている。

もう一つ宇宙関連において、インテリジェンスのための宇宙領域などはあり得るのだろうと思う。KDDIさんが発表した宇宙共創プログラム MUGENLABO UNIVERSなどもあったり、日本のスタートアップとしてもこの数年QPS研究所なども上場などもでており、情報が力というときに宇宙領域というのはまだ可能性があるのかもしれない。

②治安維持/Public Safety tech

特にUSのスタートアップを見ると治安維持、Public safety techのような言葉もみる。自分もこのあたりの治安維持などについては非常に気になる分野だが、結論USより緊急度のIssueがそこまで高くない可能性があり、どこまで日本のスタートアップとして取り組むアングルがあるのかということがわからない。

例えば後述するように、警察向けや監視カメラなどのスタートアップは多くUSからでていて自分も気になっている分野ではあるが、殺人事件発生率は、人口10万人あたり約6.81件のアメリカ(Murder Rate by Country 2024)に対して日本は、人口10万人あたり約0.7件というデータもあるように治安としてはやはり良い。切迫してIssue度としてはもしかしたら高くないかもしれない。しかしもっとミクロに見ると治安維持の観点においてまだまだ解決策が足りていないところもあるはずだ。

しかし例えば日本独自の対策必要性があるのは、例えば震災などの影響が大きい国ではあるため、そういった震災の影響が大きい地域に対する対応策やテクノロジーによる対応などはまだまだ可能性があるのではないかと思ったりする。もしくはANRIの投資先のアーバンエックステクノロジーのような、地方地域の道路維持ためのサービスなどはまだまだ可能性がある。広義のPublic Safety techというのは日本のスタートアップとしても可能性はある気はしている。

③防衛

この分野はまずは日本のスタートアップとしても触りづらい。一方では後述したようにUSのスタートアップ中心に多く様々な軍事関連の企業がでてきている。一番有名なのはAndrilだろう。

防衛力抜本的強化の進捗と予算にもあるように無人アセット防衛能力というところにおけるドローン技術などは国産のものがでてきてもいいのかもしれない。

またその文脈において、海洋国家である日本においては、軍事武器ではないがSaildroneのような企業/水中海洋自動ドローンみたいなのはまだまだ必要の余地があるのではないかとは思う。

ただこの領域においては倫理的な問題も含めて個人的にもスタートアップが取り組むテーマは議論の余地が大きい。

④サイバーセキュリティ

サイバーセキュリティはもうそこまでここで加筆することはないし、US含めて世界的にもこの分野のスタートアップは数え切れないほど多くある。そこと比較しては日本においてはまだまだ少ない(一方海外のサービスをつかえばいいという話でもあるので難しい)

なのでこの分野においてはより日本からも企業がより多くでることを期待している。

一つ大きなテーマ/Issueとして治安/防衛において日本のスタートアップとして取り組めるかもしれない分野について4つ記載してきた。この分野は国としての課題の大きさはどの国も増してきていることは間違いないが、自分でも調べながらでは必ず日本からこの分野が伸びる/伸びるべきなのかというのはまだ判断しかねる。

しかし1つ大きなBig issueとして今後も考えたいものではある。もっともこの領域がなくなっていくことが世界平和のためには重要なので盛り上がることが良いことではないとは思う。ただ足元で起きている現象は現象として事実を捉えるなかでどういう関わり方があるのかは自分も考えなければならない。

結論としては曖昧だが、なにか参考になれれば幸いであるしディスカッション歓迎なのでぜひ。


おまけ:記事を書くにあたって調べた企業について簡単におまけとして記述しておきたい。

①認知領域/インテリジェンス/ナラティブ攻撃分野

Bigdataという言葉が独り歩きしていたが、そういった多様なデータをAIの技術含めて活用し、インサイトを届けることができるようなスタートアップは増えてきている。防衛にそのデータを活用したり、認知領域におけるプロパガンダ防止のために利用されたりしている。

Palantir

事業内容:日本でいうシステムインテグレーター事業など展開中。データがバラバラに存在していたのを用途に合わせて利用ができるようにする。顧客に政府機関などが多く、初期はCIAがメインの顧客。(CIAがが最初の投資家でもある)Gothamというデータ統合/解析/判断システムを構築。ヴィンラディンの発見や、テロの未然対策や容疑者監視など様々な用途で利用されていた。主要顧客にはペンタゴン(国防総省)、CIA、FBI、NSA(米国家安全保障局)、DIA(米国防情報局)などが含まれている。現在は上場し、民間の会社からの売上と政府関連からの売上は半々ほど。

・Blackbird AI

事業内容:AIと機械学習技術を活用して、情報操作や偽情報(ディスインフォメーション)を監視し、検出するためのプラットフォームを提供。ナラティブ攻撃などに対応するために組織的な情報操作やプロパガンダの検出に特化。偽情報の拡散を抑制するためのツールを提供。同様の企業にGraphikaなども。

・Vannevar labs

事業内容:  米国政府の防衛および情報機関向けに先進的なAIおよび機械学習ソリューションを提供する企業。Vannevar Labsの主力製品の一つは、AIを活用した外国語翻訳とテキスト分析プラットフォーム。情報機関や軍事機関が海外のインテリジェンスを効かせることができる。また音声や無線通信などの信号データをリアルタイムに解析し、脅威やインテリジェンスに役立てるサービスも提供中。

・Modern intelligence

事業内容:  AIと機械学習を活用して、海洋領域意識(Maritime Domain Awareness)を提供する企業。彼らの技術は、海洋の広大なデータを分析し、船舶の動き、潜在的な脅威、違法活動などをリアルタイムで監視し、特定することを目的としている。


②治安/Public Safety分野

治安維持のために警察内部のシステム開発を行っている企業がUSでは多く登場している。

・Mark43

事業内容: 公共安全機関(主に警察)向けに、現代的な記録管理システム(RMS)とコンピュータ支援派遣(CAD)システムを提供。警察や公共安全機関が日常業務をより効率的に、かつデータドリブンで遂行できるようにすることを目指している。RMSはクラウドベースであり、警察官がどこからでもアクセスできるよう設計。Mark43のCADシステムは、緊急通報の処理と警察の派遣業務を支援するためのツールです。CADシステムは、911の通報を迅速に受け取り、最適な警察部隊を現場に派遣するためのリアルタイム情報を提供。

・Flock safety

事業内容:  公共の安全と犯罪予防を目的とした自動車ナンバープレート認識(ALPR)技術を提供。Flock Safetyの主力技術であるALPRシステムは、街中や駐車場などに設置されたカメラを使用して、自動車のナンバープレートを撮影し、その情報をリアルタイムでデータベースと照合します。これにより、盗難車両や犯罪に使用された車両の特定が可能になり、迅速な捜査を支援。多くの住宅地やマンション団地が、Flock Safetyのカメラを設置して、自分たちの地域の安全を守るために利用。

・Aerodome

事業内容:  元警察官が立ち上げた。警察の人手不足に対応。自動ドローンシステムにより、3分以内に事件現場に到達することを目標。ライブ映像で、先にドローンがつき事件の現場の撮影などを行う。ドローンには地上レーダー、無線周波数センサー、遠隔IDデータが搭載。

・Axon

事業内容: 警察や公共安全機関向けのボディカメラ、電気ショックデバイス(TASER)、デジタル証拠管理ソフトウェアなどのテクノロジーを提供。特に、TASER(テーザー)という非致死性の電気ショックを与えるデバイスで有名。ボディカメラなどもプロダクトラインとしてあり警察などが身につけるものを開発、提供

・Cellebrite

事業内容: デジタルフォレンジック技術を提供する企業で、特に法執行機関や情報機関向けに、スマートフォン、タブレット、コンピュータなどのデバイスからデータを抽出、解析するためのツールを開発。犯罪捜査やサイバーセキュリティ調査において重要な証拠収集となる。世界中の警察や法執行機関で広く使われている

・Clearview AI

事業内容: Clearview AIの技術は、インターネット上で公開されている画像を使用して、個人の顔を特定し、人物の検索を可能に。特に犯罪捜査や行方不明者の捜索に利用されることが多い。警察官などが画像をアップロードするとその画像に基づいて迅速に一致する人物を特定できる。一方プライバシーの懸念が多く、EUなどでは裁判となっている。

・Saildrone

事業内容:  無人の海洋探査ドローンを開発する企業で、主に海洋データ収集と監視を目的。ドローンは風力と太陽エネルギーで動き、長期間にわたって海洋を自律的に航行します。Saildroneの技術は、気象観測、海洋環境の監視、漁業資源の調査、国境警備など、多岐にわたる用途で使用。


③防衛

軍事産業はアメリカにおいて大きな産業の1つであり、ウクライナ侵攻以降株価もあがっている

・Shield AI

事業内容:  人工知能(AI)を活用した自律型無人航空機(ドローン)および自律システムを開発。複雑で危険な環境での偵察、監視、情報収集を目的として利用。Shield AIの技術は、特にGPSが使えない環境や通信が途絶した状況でも、自律的にミッションを遂行できる。

・Anduril

事業内容:  先進的な防衛技術を開発するアメリカの企業で、AI、機械学習、自律システムを組み合わせたソリューションを提供。無人航空機(ドローン)、自律監視システム、センサー技術、戦場での状況認識を向上させるためのプラットフォームなど、様々な防衛用途に使用

・Epirus

事業内容:  指向性エネルギー兵器(DEW)と呼ばれる先進的な防衛技術を開発。特に、高出力マイクロ波(HPM)システムを用いて、無人航空機(ドローン)や電子機器を無力化する技術を提供。Epirusの主力製品「Leonidas」は、ドローンの群れを一度に無力化することができ、重要施設の防衛や戦場での対ドローン戦術に使用。

・AeroVironment

事業内容:  無人航空システム(UAS)と戦術的ミサイルシステムを提供するアメリカの企業です。彼らの製品は、軍事、商業、公共安全の用途で広く使用されています。特に、AeroVironmentは小型の無人航空機(ドローン)であるRaven、Puma、Waspなどの開発で知られており、これらは偵察、監視、情報収集、戦術的な攻撃任務で使用

・Dedrone

事業内容:無人航空機(ドローン)検出および対策技術を提供する企業で、ドローンの脅威から空域を保護するためのソリューションを開発。レーダー、センサー、カメラ、RF技術を組み合わせて、空域内の無人機の動きを監視し、脅威を識別。Dedroneの技術は、軍事基地、空港、政府機関、重要インフラ施設などで広く使用され、不正なドローン活動の早期発見と対応に役立つ

・Red Six Aerospace

事業内容:  拡張現実(AR)技術を活用して、戦闘機パイロットの訓練を革新する企業。空中での仮想敵との戦闘シナリオをリアルタイムで生成し、パイロットが安全かつ効果的に訓練できる環境を提供。。Red Sixのプラットフォームは、実際の飛行環境におけるARの活用を特徴としており、パイロットの戦闘スキルを向上させるための高度なトレーニングを可能にする。

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