先進国の成熟と衰退が紡ぐナラティブとしてのインパクト投資/気候変動〈StanfordGSB・熊平智伸〉
久しぶりにPodcastを録ってみました。来年はもう少し増やしたいなとおもいつつ、文字起こししたりすると結構な時間を使うので要検討中。ただ投資先ではないのですが、結構最先端でトライしている人たちと話したり取材したりするのは結構好きで、それがいまのVCという仕事にもつながっている気はしていて、ライフワークとしてこういった人たちと話していくことはやっていきたいなと思ってます。
今回は今Standard GSBにKnightHennessy Scholarとして在学している熊平智伸さんにインタビューしてみました。同世代(同じ歳)として尊敬している友人であり、キャッチアップを定期的にしているのですが改めてどういう思いでキャリアを築いているのか・インパクト投資への考え方などについて聞いてみようと思い取材してみました。
ーPodcastは下記からぜひ(Spotifyはこちら)・抜粋の文字起こしも下記から読めます
Tweet今日はよろしくお願いいたします。今回は本当に投資先とか関係ないでんすけど、同世代多分同い年の、他の国でかつ稀有なキャリアでやられてる方で僕がリスペクトしている熊平さんに来てもらった自己紹介などよろしくおねがいします。
熊平と申します。日本の中学校、高校にいきました。大学も慶應に一瞬入ったのですけれど、大学に在学してちょっとしたあとに、海外に行ってみたいなというふうに思い、アメリカの大学に編入をしました。そこで国際関係論などの勉強した後に、日本に帰国して三菱商事という総合商社ですね、そこの金融部門に入社して、いわゆるプライベートエクイティ投資や、ファンド投資などに携わりました。
そのうちに大学時代から元々ソーシャルインパクト・インパクト投資や、社会起業に興味があったのですが、働いているうちにインパクトを自分の手で作ってみたいという思いが強くなって、三菱商事の次は、ケニアにある林業を行っているベンチャーのKomazaという会社に飛び込みました。
そこで5年ほど仕事しました。会社のフェーズとしては、NGOとして始まった組織だったんですけれど、そこから徐々に事業ベースに切り替えて、機関投資家や総合商社に投資家として入っていただくプロセスを5年かけて一通りやって、仕事が済んだかなというところで、この秋から、アメリカのスタンフォード大学経営大学院に留学をしています。
(✓なぜアメリカにったのか ✓アメリカで苦労したこと ✓なぜ日本で就職したかはPodcastにてお聞きください)
留学中に興味をもったインパクト投資ってどういうものなのでしょうか
インパクト投資というのは一言で言いますと、VCにとってのファイナンシャルゲイン・お金のリターンを期待する投資と同じように、何か社会にとって良いこと・ポジティブなことが起きるっていうことをリターンの一部として考える投資のことをインパクト投資と一般的に呼んでいます。
元々はNPOにお金を寄付するとかっていうのが、社会的な善行するためのツールとして普及してきたものなんですけれども、それをさらにビジネス的な考え方でスケールさせていくことが、 いわゆる公共政策だけでは社会の難しい問題に対処できない時代に、なんとかして知恵もお金も使ってやっていかなきゃいけないという中で編み出された新しい投資に対する考え方でアセットクラス というように理解してます。
インパクト投資というと、ファイナンシャルリターンはトレードオフになってしまうのかっていう話を聞かれることが多いんですけれども、直近のインパクト投資家に対するサーベイでも、ほとんどの投資家が普通の投資と同じ水準の金銭的・経済的なリターンを期待しています。なので実際のマーケットの見方としては、インパクトと経済的な負担、両方を充足させるというのが考え方が一般的です。
抽象的な質問なのですが、なぜこの今のタイミングでインパクト投資みたいなところが注目されていると思われていますか
難しい質問なんですが、自分なりにも考えてお答えすると、需要と供給という考え方をするのが一番いいかなと思っています。需要という世界でいうと、 この20年強っていうのは、私の理解では、先進国が徐々に成熟していき、成熟という名の衰退をしていく時代 だと思っています。
これからそれはどんどん深まっていくと思いますし、やはりアメリカですとか欧州や日本もそうですけれど、 先進国と呼ばれる国で貧困が問題になっていく。かつて途上国向けに支援されたような内容の話がそのまま、一部の地域で転用できるような状況になっていく。社会の需要そのものが、イケイケの経済成長を通して中間層が増えていくという20世紀の形から変わってきつつある。
その中で課題が増えているにも関わらず、政府の対応力は税収が落ちていくなか下がっていて、そのときに誰かが何かをやらなきゃいけないっていう流れが、90年代後半のソーシャルセクターの隆盛ってのも繋がったと思いますし、 時代の要請として社会の課題を公共政策のみで対処していくかの限界っていうのが見えてきたというのが需要サイド だと思います。
供給サイドという意味では、 ビジネスの領域としての再解釈が社会的なインパクトな議論の中に出てきている というふうに感じています。 そもそもインパクト投資の源流になってるNPOとかプロテスタンティズムの話と繋がってくると思います。いわゆる浄罪とよばれる、お金を儲けたときにお金を社会に還元することによって、罪を洗い流すという、社会に良いことをしてますという行為が自己目的化して生まれたのがPhilantrophy なのですが、この10年、20年で見ていくと、例えばマイクロファイナンスのように金融包摂と言いながらも、やはりそこってビジネスの機会があったりですね、あるいはMissingミドルクラスといって中間層がターゲットにされたり・ 今後の中間層になりうる低所得者層がターゲットにされてるっていうの一つの市場としての価値が徐々にソーシャルセクターの中から生まれてきています。ビジネスベースで見たときに、そこに供給をする理由・リスクマネーを供給する理由が生まれつつある と考えています。
今日の起業家に求められる人物像の中に、やはり社会的なやりがいとか意義っていうものはもう内在化して生まれてくるものだと思うんですね。ですので、これは自分が学部の時代にインターンをした先で感じたことでもあるんですけれども、 おそらくそのプライベートセクターがパブリックセクターの物語性とか、ナラティブっていうものを取り込んでいくことになるだろうなというふうに感じていて 、そのプロセスが今申し上げた需給の話なのかなというふうに考えてます。
(✓ケニアでの仕事の内容 ✓なぜケニアなのかの意思決定の話なども面白いのですが、Podcastで・・)
自分がVCという仕事をしているからこそ気になるのですが、インパクト投資の意味合いも強いKomazaに対して海外の投資家がそれを見るんだろうか知りたいのですがどうでしたか
Komazaの事業は、林業という伝統的な領域で、テックを活用したユニークなオペレーションをやっていて、SaaSのように比較対象があまりないので、基本的に投資家からインサイトのある仮説が出てきずらい。なぜなら情報の非対称性があまりに大きすぎる。
やはり投資家さんの強みっていうのはいろんな会社さんを見てて、そこから相場観を持ってマクロの世界で投資のテーマを決めていただくことだと思うんですけども、我々の場合どちらかというとあまりにもどれにも属さないみたいな感じの属性だったこともあって、そこをいかに自分たちで定義していくかっていうところは、仕事の一番の面白さでもあり難しさでもありました。往々にして、 投資委員会通されるときの直前のDDのフェーズとかでもですね、基本的には個社に対するインベストメントテーマを用意してもらうだけではなく、そのファンドそのものがその領域に出ていく意義みたいな、投資対象のスコーピングのディスカッションも併せてやる っていうことがかなり多かったので、私どもはそこはチームでもうやるしかないというふうに決めて、アドバイザリーとかPEファンド出身者を財務チームで抱えて、必要であれば48時間以内にベストアンサーを出せるみたいなキャパシティをインターナルで作ってしまった。どちらかというと、一緒に考えてやっていきましょうというコンサル営業みたいなコミュニケーションすることが多かったです。
(より詳しい海外投資家とのやり取りについてはPodcastにて)
本題なのですが今スタンフォードにいらっしゃると思うんですけど、そこに行くきっかけであり想いなどを伺わせていただいてもよろしいでしょうか
自分の中のキャリアの話と、あとはテーマの話と二つがあると思っています。キャリアという意味でいうと、「そもそもなんでケニアに行ったんだっけ」っていう話戻るわけなんですけれども、自分の中でケニアに行ったのはですね、仕事の中で迷子になっていたときに行きました。一番迷いが大きかったのは、自分はアドバイザーになるのか、投資家になるのか、起業家になるのかっていう問いでした。
3つのパスがあってどれなんだというのを、極限の状況を経験すれば、いやでもわかるだろうと考えて、それに向き合うためにいろんなFellowshipにアプライしていろんな人と話したりしました。仕事しながら考えることがあったんですけれども、やはり自分の中で一回、事業というものを作ってみたいっていう欲は正直希望としてありました。それをするためにどうするかっていうキャリアのフェーズの話です。
もう一つテーマというところでいうと、これはKomazaにいたときの経験でもあるんですけれども、当時アフリカの零細・小規模農家が今後アフリカ経済の主体になるから、そこに対して投資をするのが非常に大きな国際的なテーマになっていた時代があったんです。それが、この2年間ぐらいで一気に、気候変動に話が塗り替えられていった。そういった変化を目の前で見て、このテーマって実はもっと奥が深いんじゃないかと感じました。
そもそもケニアに行った理由でもあるんですけれども、 21世紀のテーマとしてですね、①アフリカという地域軸のテーマ、②貧困という社会軸のテーマ、③気候変動という地球軸のテーマ、その三つの軸があれば絶対食いっぱぐれることはないだろう と思っていました。実はアフリカのスタートアップの世界も、ソーシャルインパクトの世界もいろんな先人たちの知恵によって支えられてる領域なんです。20年30年前に誰かがやったことをどっかコピーしてるみたいなことよくある話で、そういった意味で先人の肩の上に乗って立ってるから成り立ってると思いますし、逆に言うとその先人達を超えることはかなり難しい領域でもあって、やっぱりパイオニアとして何ができるのかっていうのを考えたときに、新しいフィールドに飛び込むっていうのが一番筋がよさそうと考えました。
であれば、どこで何をやるべきかと考えて、 気候変動というのはですね、どうしてもソーシャルインパクトみたいに目の前の人を助けるような目の前のインパクトが生まれない。この「気候を変える」って、「気候って誰」って話ですね。なのでかなりアカデミックな部分も入ってくる 。ということで、いくらアフリカに興味があっても、そこに残ることよりも実はその勉強した方がですね、結果的には近道なんじゃないかなということで、キャリアの軸とテーマの軸と、あとは知識がどこにあるのかという軸で考えて、一番いいのは世界でそういう話を一番議論している場所だろうことで、スタンフォードにきました。
率直な行ってみた感想とか今やられてる感想みたいなところを聞きたいんですがどうですか
宿題とか、テストとか大変なんですけど、皆さん優秀です。「後悔してますか」とかよく聞かれるんですけど、全く後悔はないですね。今まで自分の時間がなかったっていうところもあって、1回自分で棚卸をして考えるっていう意味でも非常にいい時間になってます。
自分の時間として非常に豊かな時間になっているというのはカリキュラムそのものもあるし、あとはいろんな業界の人たちがいる。よくみんな言うんですけれども、自分の中で一番それが役に立っています。 感動的なのは、すぐに質の高いフィードバックが得られるっていうところだと思っていてます 。例えばですけど、PMっていう仕事って何なのかって疑問がでたときに、ぱっと周りの生徒を見ると10人ずつぐらいGoogleとMetaのPMの人がいる環境は非常にありがたいです。新しい業界とか違うものを知りたいときに非常に役に立ってますし、あとはお互い何かメンタリングとかコーチングみたいなことをよくする校風なんですけれども、そのあたり実はあんまり期待してなかったんですけども、正直言うとドキッとさせられることが日常的にあってですね、そういった意味でも非常に充実してるのかなと。
最後は本当にエコシステムですけれども、ここは本当に言うべくもなく世界のトップの人たちがあらゆる分野でいて、話ができる。入ってくる刺激の総量が、日常のレベルから離れていくので、それもまたありがたいです。
どういったものに興味関心が大きいみたいなとこって共通項などはあったりするんですか?
MBAとかビジネススクールというと、特にウォールストリートみたいなイメージで、結構みんなコテコテにやってくってイメージがあると思うんですけど、そういうことはほとんどないです。社会的な責任はどうなのかっていう話はポピュラーだし、あるいは気候変動の話もありますし、学生の中には軍人もいれば、コロナ禍でコロナ対策をやってたお医者さんもいれば、行政の人もいればっていう、そういうコミュニティです。
そうした意味では、ただのお金じゃない世界への関心を全般的に高いっていと思いますし、その中で起業をするっていうのは、特にスタンフォードは場所がシリコンバレーのど真ん中ということもあってですね、ポピュラーでもあります。いろんな業界の人が集まっている場所ですので、そこはどちらかというと、おのおの自分がやりたいことをやっていることが大事みたいなところもあるのかなと思います。
学生の中でも議論がわかれるんですけれども、ピアプレッシャーがあるからこそみんな起業して夢を見ようと思うみたいなところがある反面、腹の底ではやっぱ自分なりにやりたいことがあってきてるので、そのやりたいことをやりきることの方がいいよねっていう。キャリアの悩みに近いんだと思うんですけれども、そこは結構入り混じった感じなのかなというふうに思っています。
ただ大学全般で見たときにはやはり大きなテーマっていうのが決まっていると思っていて、今は本当に気候変動が、最近20数年ぶりに新しい学部が創設されたってのもあるんですけれども、大きなテーマになっていて、いかに違う分野の研究の人も実務家の人たちも合わせてやれるかっていうところに一番大学としてリソースを割いています。
人生を通して何か変化を求めている感覚はあるんですけど、何かその動く力の源泉というかどういう人生にしていきたいかなど考えられていることありますか
これ結構難しいというか、なかなか答えがすぐに出てこない質問なんですが、正直ちょっと期待されてるの答えじゃない気がするんですけど、結構「惰性」だなって思っています。
自分の中で一番じゃなきゃいけないとか、何々をやらなきゃいけないっていうことを思ってた時期もありました。ただ自分の中では、いろんな仕事をしてみたり、 やる中でこうじゃないかって思うがままに好奇心を持ってやってみると、いろんなことが見えてきて、そうするとその次のステップへそこからは結構はっきり見えたりする んですよね。惰性で失敗するかうまくいくかどうかも実際わからないですし、勝算があるって言ってますけど、どこまでのものかわからない中でですね、とりあえず考えてやってみたらうまくいってそれは今のところまだ続いてるからこうなっているっていうところです。
ここはビジネススクールにいる間に考えたいことでもあるんですけれども、やはりそこは自分の向き不向きがある中で、どうやって実践しながら試してみて、向いてるところに特化していくっていう、転換点にあるのかなっていうのを今ちょうど思いながらやっているところです。
やり続けてるのがすごいなと思うんですけど何か大義を背負うみたいな感覚はあるんですか
昔は結構大義を背負いたくて、パブリックな仕事をしたいと思ってたんで、そこはありましたけど、 今はどちらかというと大義には逆らわないっていうのを大事にしてる 気がしますね。
どちらかというと自分がうまくやりたいというよりは、続けられるようにどうしたらいいかっていうのを工夫してきたキャリア設計だと思いますし、やはりインパクトに関わる仕事をやりたいってときにNPOにいきなり飛び込まずに、ファイナンスに興味をもったのも、やっぱり続けるためには自分でお金稼げないといけないし、 そういうときにバックアップがあった方がいいとかって、結構リスクアバースにしてきてる んですよね。なので実務経験でリスクをとりながら、もう一方でMBAもそうですけれども、言ってしまえばバックアッププランをちゃんと横に置いて、いかに続けられるかっていうのが大事です。
大義についても同じように、「これをやりやらなきゃいけない」っていうふうに自分が神ならぬ身なので、素行の正しさにコミットするっていうようなことは難しかろうと。その代わり、 社会の趨勢から見て自分が正しくないと思うことはしないようにするにはどうしたらいいか 。結構それはそれで難しい問いだと思うので、そんなに力を入れずに、ただそこから大きく外れることもなく、っていう感じでやっています。
(スタンフォードでどういうサポートがあり、どういうことを今後期待しているかはPodcastにて)
(逆質問の中路が今の社会の変化をどう捉えているのかっていうのはPodcastにて)
ー下記改めてPodcastはこちら
いやー個人的には非常に面白いインタビューでした。どうだろう?面白い気がするのだけど、どうなんだろう。。
キャリア観点でいけば自分も少し似ているところはあるものの、単純に熱い思いもあるのは知っているのですけど、それだけじゃないリスクアバースな意思決定をしながら進んでいく姿には自分もすごく共感できました。大義を背負うことも若いと考えがちですが、それだけじゃなくキャリア意思決定していくことは普通のメディアでは語られづらい生っぽい情報でこのように話してくれて感謝です。こういった挑戦していくキャリアの人がもっと増えていくことが世の中を良くしていくと信じてます
またインパクト投資がなぜ今盛り上がってきているのかという歴史的経緯に関してもものすごく興味深かった。ソーシャルセクターの活動がある国とかそういった限定したものではなく、より課題が多様化していく中でその課題に関してビジネス的再解釈がもたらした結果インパクト投資といった形で現れてきている歴史文脈の考え方は自分の中でそこまで考えれていたことがなかったので聞いていて非常に面白かったです
またStandford 卒業される際などにあらためてPodcastなどで取材できればなと思いました。熊平さん改めて今回はありがとうございました。
-熊平さん情報
https://twitter.com/tombear1991
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