InstagramやOpenAIを育てたJoshua Kushnerの投資哲学:Thrive Capital成功の秘訣
ジョシュア・クシュナー(Joshua Kushner)とは何者か
近年、人工知能(AI)スタートアップのOpenAIやInstagram、Stripeなど世界的に話題を集める企業に投資し、一躍注目を浴びているのがジョシュア・クシュナーだ。兄のジャレッド・クシュナーはイヴァンカ・トランプと結婚し、ドナルド・トランプ政権で補佐官を務めたことで広く知られている。しかしジョシュア本人は、ニューヨーク拠点のベンチャーキャピタル「Thrive Capital」を牽引し、独自の投資哲学とリーダーシップでアメリカのスタートアップ・シーンを大きく動かしている。本稿では、ジョシュア・クシュナーがどのようにThrive Capitalを築き上げ、OpenAIのようなユニコーン企業に積極出資するまでの軌跡と、その根底にある投資スタイルを概観する。
生い立ちと家族背景
家族の不動産ビジネスとスキャンダル
ジョシュア・クシュナーは1985年生まれで、祖父母はホロコーストを逃れたユダヤ系移民である。父のチャーリー・クシュナーは不動産事業で成功を収めたが、政治献金の不正などで一時的に服役した過去がある。ジョシュアはハーバード大学在学中にこのスキャンダルを経験し、家族の結束の大切さを強く感じると同時に、外部からの批判がいかに厳しく降りかかるかを学んだ。
兄ジャレッドとの政治的相違
兄のジャレッド・クシュナーはイヴァンカ・トランプと結婚し、トランプ大統領政権で要職に就いた。一方、ジョシュアはトランプを支持しない立場を取り、自身の投資活動や仕事上のネットワークにおいて政治的に距離を置く姿勢を明確に打ち出している。家族としての絆を保ちながらも、投資家としては冷静かつ独立したポジションを維持している点が特徴だ。
カーリー・クロスとの結婚
ジョシュア・クシュナーはスーパーモデルであるカーリー・クロスと2018年に結婚した。クロスも起業家やファッション誌への投資に積極的で、ジョシュアのビジネスにおけるネットワーク作りにも一役買っている。ふたりはニューヨークのパック・ビルディング最上階に居住し、エレベーターで数階降りるだけでThrive Capitalのオフィスに着ける環境を活用している。
Thrive Capital創業までの経緯
ハーバード大学での起業・投資活動
ジョシュア・クシュナーはハーバード大学在学中から投資家としての活動を始め、ブラジル向けソーシャルゲーム企業Vostuを共同創業した経験を持つ。スタートアップの困難を実地で知ると同時に、ニューヨークやシリコンバレーの投資家コミュニティに接触し、人脈を築いていった。
初期ファンドの組成と急成長
2011年に最初の機関投資ファンドとして4000万ドルを集め、正式にThrive Capitalを立ち上げた。投資実績としては、GroupMeが1年後にSkypeに買収されたり、Instagram買収直前に資金を投入して利益を得たりと、立ち上げ早々に複数の成功を収める。特にInstagram投資は、フェイスブック(現メタ)による約10億ドルの買収のわずか数日前に出資を完了しており、ジョシュアの決断力や創業者とのコミュニケーション能力が大きく注目を浴びた。
投資哲学とスタイル
創業者重視の長期投資
ジョシュア・クシュナーは「短期的な利益よりも長期的な価値創造」に焦点を当てる投資家だとされる。創業者のビジョンやチームのカルチャー、メンタルサポートなど、数字以外の観点にも深くコミットする。Instagramのケビン・シストロムやOpenAIのサム・アルトマンなど、複数のCEOから「何かが起きたときに最初に連絡したい相手」と評されている点が、このスタンスを象徴する。
選択と集中
Thrive Capitalは1年に数件しか大きな投資を行わず、厳選した案件に深くコミットする方式を取る。2023年にはOpenAIに対して1億3000万ドルを出資し、さらに社員株買取を伴う追加投資を実施。Stripeの緊急ラウンドにも18億ドルという巨額投資を主導して存在感を示した。競合が手控える局面で大きく張るリスク許容度の高さが特色だ。
メディア露出を控える姿勢
トランプ政権関連で家族が注目を浴びる一方、ジョシュア自身はメディア対応を積極的に行わない。Thrive Capitalの成果をもって評価される方が望ましいという考え方であり、投資先企業のサポートを第一に考えている証左でもある。大々的なセルフプロモーションよりも、創業者を支える「裏方」として動くことで、彼らからの絶大な信頼を勝ち取っている。
Thrive Capitalが投資する主な企業
OpenAI
2023年以降、OpenAIの大型資金調達を主導し、企業評価額を数百億ドルから1000億ドル超へ急拡大させた。ChatGPTの爆発的普及により注目されるOpenAIだが、CEOの解任騒動時にもジョシュアは「まず会社のチームを気遣う」対応を取り、幹部らから高い評価を受けた。
フェイスブックによる約10億ドルの買収直前、Thriveが短期間で350万ドルを出資し、SPV(特定目的ビークル)を用いて追加投資も行った。インスタグラム創業者のケビン・シストロムは「彼ほど親身にアドバイスをくれた投資家はいなかった」と語っている。
Stripe
オンライン決済の有力企業Stripeが資金調達を要した際、Thriveが1.8億ドル規模どころか18億ドル近い大型投資を実施。起業家のジョン・コリソンは「ジョシュアは他者の目よりも企業の本質を信じて行動する投資家だ」と述べるなど、圧倒的なコミットメントで株式比率を高めている。
オフィス文化と人材戦略
若手主体のチーム
Thrive Capitalには40代以上の投資パートナーがほとんどおらず、ジョシュア自身(38歳)が最年長である。経験面での不安を指摘されることもあるが、若いチームならではの行動力とデータ分析の活用で急成長企業を支援している。VC業界では異例ともいえる構成だが、スピード感ある判断と深いコミットが可能になっている。
24/7の仕事体質
「仕事が生活そのもの」という姿勢を持つメンバーが多く、深夜まで投資先対応を続けることも珍しくない。唯一の例外が金曜の日没から土曜にかけてのユダヤ教の安息日(シャバット)で、ジョシュアはこの間は連絡を控えるようにしている。プライベートでもお酒をほとんど口にしないなどストイックな生活習慣が、集中力を高める一因となっている。
今後の課題と展望
市場低迷と評価額の変動
2020年代半ばはスタートアップへの資金流入がやや鈍化しつつある。大幅な評価額下落や「ユニコーンの大量消失」といった動きも出る中、Thriveが運用する大型ファンドがどの程度のリスクを耐えうるかが課題となる。ジョシュア自身は「この先のテック業界の動向は不透明だが、可能性があるなら投資を惜しまない」と語っている。
組織の持続性
Thriveはファンド運営会社のほぼ全権をジョシュアが持つ体制を敷いており、ベテランパートナーの独立意欲が高まる可能性も指摘される。世代交代やパワーバランスの変化にどう対応するか、あるいは単独リーダーシップのまま次のフェーズに進むかが注目ポイントだ。
「優しさ」がVCを変えるか
ベンチャー投資の世界では強引な交渉や派手なセルフブランディングが好まれる面もあるが、ジョシュアは人間関係を重んじ、常に投資先企業や創業者と誠実に向き合う。このスタイルが投資家として長期的な成果を上げ続けるかどうかは、今後の市場環境次第という面もある。しかし、彼のような姿勢を高く評価する起業家は確実に存在し、Thriveはそうしたコミュニティから案件を集めている。
まとめ
ジョシュア・クシュナーは、家族の政治的立場や不動産スキャンダルの影響を受けながらも、独自に築いた投資哲学とネットワークでThrive Capitalを成功させた人物である。
- 家族の名声から距離を保ちつつ、投資リターンと支援実績を積み上げた
- 大胆な大口投資と厳選アプローチでOpenAIやStripeなどの巨大案件を射止めた
- メディア露出を抑え、創業者をバックアップする「伴走型」のVC像を体現した
これらの点で、既存のシリコンバレー流とは異なる存在感を示している。OpenAIのさらなる台頭や市場の逆風が吹く中で、ジョシュア・クシュナーのThrive Capitalがどのように成長を遂げるのか、テック業界と投資家コミュニティの両方で引き続き注目を集めることになりそうだ。
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