第一原理から考える起業アイデアが世の中を大きく変える
昔から”考える”という行為自体がどういうことかについて”考えていた”。
きっかけとまではいかないが、”ちゃんと考えて発言しろよ”って昔の上司から言われたことが深く残っている。”考える”ってなんだろう?とそのとき改めて思えた。大学時代に読んで今でも読み返す、イシューからはじめよや、はじめて考えるときのようになどは名著だが、なかなか考えるという行為は奥深いなと思うし、難しいことだと今でも思うし、結論がでてはいない。
考え方の切り口
そうしてスタートアップやVCの仕事をするようになり、起業アイデアやその起業アイデアが受け入れられるのか・また成長仮説があたっているのかどうかをより考えないといけないことが増えてきた。そしてまだまだ歴としては浅いが数年間いろいろな起業アイデアや、考え方と出会わせていただいた。その中で、自分なりの言語で再記述してみたいと思って何本か考え方についての記事を書いてきた。
#18 ナラティブだけが人を動かす や、#46 AI時代におけるセンスの必要性について や、#42 ロジカルシンキングの限界とスペキュラティヴシンキングの可能性 ~ユニコーン企業を生む問い~ などは、考え方が主題の記事である。
Narrative(ナラティヴ)、Speculative(スペキュラティヴ)・Sense(センス)という言葉/概念の重要性は、上記の記事で書いてきた。
もう一つ最後にこの考えるというテーマにおいて、書いておきたいことがFirst principles(第一原理)という概念だ。今回の記事においてはこのことについて自分でも解釈しながら、言語化することを試みる。
自分が会ってきた起業家の中でも優れた起業家や、起業アイデアにはこのような第一原理から考えられているように思えた。なのでよりこの第一原理から考えるということが、これからの時代に必要になってくるのではないかと感じている。この記事でその点が伝われば幸いである。
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イーロン・マスクと第一原理主義
人々の思考プロセスは、慣習や過去の経験からの類推に縛られすぎていると思う。第一原理に基づいて何かを考えようとする人はめったにいない。彼らは、"いつもそうしてきたから、そうしよう "と言う。あるいは、「誰もやったことがないのだから、良くないに違いない」といってやらない。
しかし、それは馬鹿げた考え方だ。物理学では「第一原理から」という言葉が使われる。基礎に目を向け、そこから推論を組み立て、うまくいく結論が出るか、あるいはうまくいかない結論が出るかを見る(イーロン・マスクインタビュー)
”第一原理”。おそらくスタートアップに関わっている人は一度は記事で読んだり、聞いたことがある言葉などではないだろうか。一番有名なのは、イーロン・マスクがTEDのインタビューなどで語っていることではないかと思う。
上記の引用でもあるが、物理学や科学の世界で使われる言葉であるようである。第一原理=否定できない命題のようなものと解釈している。
真の知識の基礎となるようなもの、イーロン・マスクの言葉を借りるならば、枝葉でなく知識を大きな木と見立てたときの、幹の部分こそが第一原理と呼ぶものである。
“It is important to view knowledge as sort of semantic tree. Make sure you understand the fundamental principles, ie the trunk and big branches, before you get into the leaves/details or there is nothing for them to hang on to.”(イーロン・マスク AMAより)
この言葉を使っていたのはイーロンだけではない、哲学者のアリストテレスや、チャーリー・マンガーなども好んで使っていた言葉ではある。それをスタートアップ/起業のアイデアや考え方とリンクさせて世の中に伝えたのは、イーロンであると思う。
ロケットはなぜ高いのか
一番有名なエピソードとしては、ロケットに関しての記事がweb上でも多くあるだろう。イーロンが、ロケットを創る際にあまりにもコストが高かったため、それはなぜなのかということを分解して考えて、調べてた。その結果ロケットは宇宙工学品質のアルミ合金とチタン、銅、炭素繊維からできていたことが分かった。
これら原材料を商品市場での価格で考えるとロケットの原材料コストは、ロケットの価格の2%しかなかったということが判明した。あまりにも多い中間業者がそのコストを上げていたのだ。また、そして誰もロケットを再利用しようと考えていなかったため、そのことができるとロケットが安く打ち上げできるはずだとSpeceXを創業し、その結果コストを従来の1/3まで低下するような実績をだしている。
このような第一原理から考えて起業アイデアを実装していくことは、テスラにおけるバッテリーに関しても同じような思想がみえるし、例えばそれは、ボーリングカンパニーにおいても見える。渋滞の解消という課題において、前提を疑って行った結果地下につくればいいのではないかということで、地下トンネルを建設している。その地下トンネルのコストは従来の10分の1、掘進速度は日本で高速掘進と呼ばれるスピードの数倍から10倍程度が目標としているらしく、ここにも第一原理から考えられるイーロンの考え方が垣間見える。
第一原理から考える=”そもそも”を疑い分解 + 原理原則/目的からの再構築
錬金術の基本は、理解・分解・再構築だ(鋼の錬金術師)
このようなイーロンなどが提唱する第一原理から考えるような思考法は非常に興味深い。この思考法からでてきたアイデアは全て世の中を大きく変えつつある。そしてVCとしては重要な、つまりは大きな時価総額をもつ企業の創出に繋がっている。
第一原理的な思考で起業をしている日本の起業家も心当たりがあるものも何社もあるが、こういった起業アイデアを増やしていくことがVCとしても社会としても大きな変革を生むことに繋がるのではないかと思う。
ではその第一原理から考えるということを改めてもう少し理解し、自分の言葉なりで解釈できることが、自分もこのような思考法を使える手がかりになるのではないかと思い、考えてみた。
記事や本や実例を見ながら、2つの要素にわけられるとのではないかと思えた。それは①”そもそも”を疑い分解する力 ②原理原則/目的から再構築する力 この2つが第一原理から考えるためには必要ではないかと考えたことを記載していきたい。
“そもそも“を疑い分解する = アナロジーを捨てる勇気
VCという職業としてどうしても良く使ってしまう思考方法としては、アナロジー(類推)だ。それは武器でもあるが、第一原理から考えるという概念に当てはめると足枷になってしまう考え方である。
以前にこうやって成功したから、以前にこういうビジネスはこうやって失敗したから・・といって、幅広い色々な事例を見てこれること、そしてそのアナロジーの力を活かして、投資先などに対してアドバイスできることはVCの求められている一つの役割のように思える。それ自体が悪いことではないし、実際に役立つ場合もある(と信じたい)。
しかし、そういったアナロジーという考え方は考えているようで根本的に考えられているわけではない側面がある。過去の事例があったからと行って必ずしも今回の現象に当てはまるわけではない。
このようなアナロジーは経験を重ねるが故に頼ってしまう傾向がある。よくビジネスにおいても業界外の人のほうが、その業界にイノベーションが起こせる可能性があると言われるが、それはこのアナロジーを効かせることができないからである。
例えばSpaceXの前に、ロケットを再利用できるかとNASAや専門家に聞いたら直感的にムリだ!と言われるだろう。帰納的な経験主義にあまりにも傾倒してしまうとこのような革新的なアイデアというものは生まれづらいであろう。
かの有名な、ウォーレンバフェットの言葉として、”ビジネスにおいて最も危険な言葉は、「ほかの誰もがやっている」だ”というものがあるように、暗黙知・前提が固定されているようなものが感じられた場合は、それを疑う姿勢というのは第一原理から考えるには重要な姿勢なのではないかと思う。
第一原理から分析をはじめる。問題を最も基本的な要素にまで分解する。すでに知っていると思うことがあっても考えに入れず、こんな状況に直面するのは人生で初めてだ、と想像しよう。(Amp it up)
またこれはファスト&スローにおけるシステム1に対して待ったをかけて、システム2で考えるという行為にも近いものはあると書きながら思った。どうしてもアナロジーなどは、システム1の直感に近いことを感じる、システム2を始動させるのは精神的にしんどいが、そういったシステム2において物事を見る目というのが、第一原理から考えるには重要なように思える。
原理原則/目的から再構築する力
その上でもう一つ需要なのが、物事の原理原則を学ぶことと、原理原則/目的に則りゼロベースで再構築してく力・態度なのではないかと思う。
ある種の演繹的な思考法はここにおいて必要になる。どれだけ前提を疑ったとしても本当にそのアイデアがワークするかは、実際の原理原則に則って再構築する必要がある。
ここに冒頭あった知識であり勉強・リサーチの必要性がある。現実的にそれは可能なのか、この視点がないとただの懐疑主義で終わってしまう。業界の慣習や過去の経験や、人のバイアスなどを全て疑って、原理原則に則り再構築することが可能なのかどうか、そういった第一原理から演繹的にアイデアを考えていく姿勢というものが同時に求められる。
本当の意味でのイノベーションを起こすためには、原理原則から考えるべき。新しい地平を切り開く問いは演繹的である (問い続ける力)
帰納的であり演繹的であるような考え方
ここまで第一原理から考えるということを言語化してみて思えたことは、帰納的な考え方(アナロジーなど)を否定しながらも、帰納的に証明されている事実(第一原理)を元に、演繹的に考えるというような両軸が入り混じったようなものだなと思えた。これはピーターテイルの発言で有名な、”賛成する人がほとんどいない重要な事実はなにだろうか?”という質問に答えるための考え方にも似ている。
また、ある種シャーロック・ホームズなどで有名な、アブダクション的な要素がこのような第一原理から考えるという思考法にはあるような気もしている。
帰納は観測データを説明するための推論。アブダクションは観察データを説明するための仮説を形成する推論。(アブダクション:仮説と発見の論理)
センスの記事でも書いたが、世の中の様々な思考全てにあてはまるとはおもうが、バランスの取り方というものが優れているものが良いセンスであり、良い思考法なのかもしれない。
グレート・ギャツビーなどの作者、スコット・フィッツジェラルドが使った言葉でよく引用される、"一流の知性のテストとは、二つの相反する考えを同時に心に抱き、なおかつ機能する能力を保持する能力である" ということにも近いようなものを感じる。
過去を参照しながらも過去を否定するといったような一見2つは両立しないように見えるものを両立させるようなものというのは何をするにも重要な考え方なのかもしれない。
事例:大谷翔平は第一原理から考えている
この記事を書きながら、イーロン・マスク以外にもこの数年間日本・世界から一挙手一投足を注目されている大谷翔平も第一原理から考えてきた人物ではないかと思える。
自分もものすごく調べたわけではないが、まずそもそも二刀流というものは前例がほとんどない、しかしそれを実現するための原理原則からトレーニングを通じてやればいけるはずだということを考えて愚直にやった結果、様々な年配の人からのコメントは否定的であったものの、いわずとしれた活躍を見せている。
また今回ドジャースに移転するときに後払い契約を結んだニュースがあったことは記憶に新しいが、あれも第一原理から考えた結果だと思う。思う。まず原理原則上、彼の目的はチームが勝つことで、契約上は可能であった選択肢であったが、今まで誰もjやってなかったことをやる意思決定。まさにそもそもを疑って、原理原則から目的のために考えた結果ではないか。前例にとらわれず目的であるチームの勝利のための意思決定ができるのは第一原理から考えだした一手のように思える。
第一原理から考えて常識/世界を見つめ直す
自分の中にある問いの種を育てる。では派は正解を求め、とは派は問いをもとめる(問い続ける力)
いきなり現実的な話に戻ってしまうが、自分がいま働いているスタートアップ/VC業界に話を戻したい。スタートアップやベンチャーというのはまだまだ歴史が他に比べたら浅いが、例えば10年前に比べては多くのデータや経験がいろんなところで溜まってきていたり、記事化されたり本になったりしてきている。リーンという考え方やUniteconomicsやSaaSにおける様々な指標など含めて知見として溜まってきていることは良い面も多い。
しかし一方でこの第一原理から考えるということは、逆に初期よりしずらくなってきてしまっているのではないか。上段で説明したようにそれは経験が溜まったがゆえにアナロジーなどを活用して問題や課題を説く、正解を求めてしまう、正解があると思ってしまうからである。
もちろん擦られた表現ではあるが、ニュートンの”巨人の肩に立つ”という意味においても過去を参照することはより未来を見通せることができるかもしれないし、いわゆる車輪の再発明を回避することもできる。しかしそれは一方でそもそもという問いが起きづらくなってきてしまっている可能性も否めない。
そもそもUnit economicsが3倍以上なら何故良いのか?そもそもスタートアップは何なのか?なぜVCから調達すべきのなのか? など様々に考え直さないといけない問いというものは多くなってきているタイミングではないのだろうか。スタートアップのセオリーというものが出来つつあるからこそ、そのセオリーというものに対して疑わないといけない。
この点において、アドバイスの受け方も気をつけたほうが良い。そのときの前提は特に業界の変動が激しい場合役に立たない場合が多い。Paradigmの創業者たちも下記のようにこの点について語っているようである。
結局、本当に重要なことをしている人たちはみんな、自分で考えて行動していると思う。 人の話を聞かないわけではないが、第一原理から考えて自分にとって意味のあるものかどうか、価値のあるものかどうかを見極めるのだ 。(最高峰Cryptoファンド「Paradigm」の研究と彼らの未来予測)
原理原則は変わりずらい
かといって原理原則が変わることはよほどの限りはない、枝葉を見るよりは原理原則を勉強・知識を学んだ上で再構築していく姿勢が必要なはず。それは例えばビジネスにおいては、UniteconomicsではなくROICについて考えるべきであったり、結局時価総額がつくかどうかというのは将来の生み出すCFの総量だったりなど、そういった原理原則に近いものは変らないはずである。(絶対的な本質というものはないはずだが、基盤的な原理原則というものは存在するはず)
重複だが、前提を疑い否定するのは自己流でやれというものではない。必ず物事には原理原則であったり疑いづらい知識の幹がある。そういった知識を活かして再構築していくことが、この思考法にとっては重要である。この点においてスペキュラティヴシンキング と似ているベクトルだが異なる点であると言えるであろう。
トレンドやセオリーみたいのを軽視する必要はないが、枝葉の議論ではなくそのような原理原則から物事を捉え直す姿勢というものが今後だれしも求められるとは思う。例えばそれはVCというビジネスにおいても同様だと思うのでブーメランではあるが、、
そしてタイトルに戻るが、このような第一原理から考えて地平を切り開くような問いを考える起業家が増えて、より社会に大きな変革をもたらすことができるようなスタートアップ・起業家が増えることを期待しているし、自分自身も投資サイドとして、そのような問いに対して投資ができる投資家であれるように鍛錬していきたい。
Appendix
考え方の整理
いままで自分でも何個か考え方を今回の第一原理から考えるをきっかけに整理をしてみた。軸としてはX軸が妄想/思弁的度合いで、Y軸が事実/経験度合いということで整理をしてみた。
スペキュラティヴになればなるほど、未来を妄想する力が重要になってくるが実際に過去を振り返ったときのデータは少なくなってくる。第一原理から考える思考になれば、妄想度合いは高いがあくまで原理原則で証明されているものから考え方が始まる。
またロジックになれば、過去のデータもあるし現実度合いも高い。そしてアナロジーになれば、その領域のデータは少なくなるが現実的に考えていくようになる。
このように、Logic/Analogyで考えることも非常に大事だが、個人的にはよりSpeculative/First Principles の考え方が今後の未来をつくっていく上では重要になってくるのではないかというものが、ここ最近様々な記事で書いてきたことかなということを書きながら納得することができた。そしてそこを信じてもらうためのセンス・ナラティヴというものがより求められてくるのではないかと考えている。
一旦ちょっとビジネス書っぽくて少し気持ち悪かったかもしれないが、思考法みたいなことはしばらく書くネタがない気がするので、この記事で一旦終わりにしようと思う。また自分の中で新しい角度が見つかったら記事にしてみたいと思うが、なにかしら読んでいただいた方の考え方のヒントになれば嬉しい。
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